■ 論文の紹介 ■
皆さんは,脂肪肝という言葉を聞いたことがありますか? 脂肪肝は,糖尿病,脂質異常症や高血圧症を含めた生活習慣病,並びに,アルコール摂取などに伴い肝臓に中性脂肪が蓄積することで生じる肝疾患です.脂肪肝はありふれた疾患なので,それほど重大な疾患ではないと考えられる一般の方も多いかもしれません.しかし,最近では,肝臓に蓄積した脂肪が微小な炎症を惹き起こし,それが持続することで肝臓が徐々に傷害され,やがては,肝硬変,肝不全や肝がんを合併することが明らかになっており,脂肪肝は生命を脅かす疾患であると考えられています.
今回,職域検診として腹部超音波検査を受検した健診受診者のデータを活用し,未然に脂肪肝を予測するための指標についての臨床研究を行いました.本検討で着目した指標は,『脂肪肝指数(fatty liver index: FLI)』という欧米で提唱された予測式であり,健康診査の身体計測や血液検査で評価される『体格指数(BMI)』,『腹囲』,『中性脂肪』,『γGT』という4つの項目より算出可能な簡易な指標です.欧米の報告では,脂肪肝を疑う目安として,FLI≧30が有用であるとの指摘がありますが,欧米人より痩せ型の体型の多い本邦の一般集団には,必ずしもその基準が適正かどうかは明らかではありませんでした.今回の検討では,本邦の一般集団の中から脂肪肝を抽出するための最適な基準値はFLI≧21と算出され,FLI≧21と算出された健診受診者は,脂肪肝の早期発見・治療のために積極的に腹部超音波検査を受検した方が望ましい可能性が示唆されました.
『肝臓検査.com』というホームページを覗いて見て下さい.同ホームページには,FLIを算出する計算ツールがあり,健康診査の結果に記載されている数値を代入してみるだけで,皆さんも簡単にFLIを算出することが出来ます.『腹部超音波検査を受検したことがないな…』,『脂肪肝が気になるな…』という思いをお持ちの皆さん,是非,御自身のFLIを算出してみましょう.そして,FLI≧21に該当しているのならば,健康診査のオプション検査として,積極的に腹部超音波検査を受検してみましょう.
注: 本検討の脂肪肝に関して
・・・ 脂肪肝の原因には,糖尿病,脂質異常症や高血圧症などの生活習慣病,アルコール摂取以外にも,ウイルス性肝炎(特にC型肝炎),自己免疫性肝炎などの種々のものが含まれます.一次医療である健康診査では,原因が同定されていない段階での脂肪肝を拾い上げることが主体となるため,本検討では脂肪肝の成因を限定せずに検討を行っています.
論文: 『健診受診者における脂肪性肝疾患の予測指標としての脂肪肝指数の検討』
著者: 下出哲弘,松江泰弘,丸岡秀範,王紅兵,山上孝司,水腰英四郎,金子周一,山下太郎,永田義毅
掲載誌: 日本人間ドック・予防医療学会誌. 2025年9月号 Vol.40 No.3 544-554.