“合理的配慮”をご存じですか?
さくらまちハートケアクリニック 荒井 秀樹
上司A :「最近仕事が遅れがちだけど大丈夫?去年復職してからも心療内科に通院中だったよね、このまま仕事していていいのか、主治医と相談してきてくれないか?」
昨今、メンタル疾患・障害等を抱えながら仕事をしている社員は珍しい事ではありませんが、そうした社員の中には、労働生産性や業務遂行能力が低下した状態のまま就労している社員も少なくありません。こうした状態を『プレゼンティーズム』といいますが、プレゼンティーズムによる健康関連損失コストは全体の8割近くになると言われています。そうした社員に対しては、「仕事を離れて休んでもらえばいい」と思いますか?それとも、「より働きやすくなるように、何かを配慮してあげればいい」と思いますか?状況にもよりますが、上記上司Aの言葉には、どちらの思いが感じられるでしょう?
このことを考える場合、『何かを配慮すれば、障害・疾病のない人と同じ程度に<本来業務>ができるかどうか』という視点が重要です。この問いに「Yes」の場合は、社員に対して、より生産性を高めるための配慮を検討し提供することは、事業主の義務となります。これが『合理的配慮』というものです。合理的配慮は、疾病や障害の種類や程度により個別に検討されるもので、障害・疾病のある社員と事業主相互の話し合い等で成立します。一般に中長期な期間にわたることが多く、社員にとってはメリットばかりではなく、場合によっては社員の処遇の変更などを伴うこともあり得ます。一方、上記問いに「No」の場合は、社員への配慮を考える前に、休務や休職を考えることが必要で、治療や受診を促すことが事業主の安全配慮義務になります。
合理的配慮と似た言葉に『就業上の配慮』というものがあります。これは、長期休養を終えて職場復帰する場合に、時間外労働禁止、出張禁止などの業務制限を社員に課すことです。療養のための長期休務を終えて通常勤務に戻すまでの移行期間中に、復職する社員の安全と健康を損なわないために、社員の疾病特性を考慮しつつ就労させるための配慮ですので、期間限定的なものになります。『合理的配慮』と『就業上の配慮』は似て非なるものです。
冒頭の上司Aが、どのような意図で社員に言葉をかけたかは分かりませんが、合理的配慮という知識があるかどうかは重要なことです。それによって、社員への対応は大きく変わってしまうでしょう。社員への配慮という点では、主治医が意見することはできても、職場が措置を決めなければいけない事柄もあるのです。職場がこのような配慮を、一部の社員にすることを「平等ではない」と言う方がいるかもしれませんが、ちょっと待ってください。障害や疾病がある社員が、適切な配慮により、障害や疾病がない社員と<同等の>労働生産性を生み出すことができるのだとすれば、そのような配慮をすることは「公平なこと」で、それを検討しないことこそが不平等になってしまうでしょう。合理的配慮は、昨今話題になりやすい発達障害と呼ばれる特性を持つ社員への対応などにおいても考慮しなければいけないことと言えますが、何もメンタルの問題に限定されるものではありません。配慮をする側も配慮を受ける側も、正しく知っておくことが必要です。