『飲酒と健康』
とやま健診プラザ 医師 丸岡秀範
人類とお酒には、発酵した果物を食べたことから始まる有史以前からの古い歴史があります。
お酒にはストレスや緊張を和らげるなど、適量を守れば人生を豊かにしてくれる効用があると思われますが、その一方で飲み過ぎにより、様々な健康障害や飲酒事故等、トラブルの原因となってきたことも事実です。
アルコールが関連する健康障害として肝機能障害(脂肪肝→慢性肝炎→肝硬変→肝がんの発生)は多くの方々が認識されているようですが、その他のがん(咽頭がんや食道がんなど)の発生や心臓疾患(心筋梗塞などの冠動脈疾患や心房細動などの不整脈)などにも大きく関連していることは意外と知られていません。
2023 年に日本循環器学会が示した「冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン」の中でも、従来は認容されていた少量のアルコール摂取の冠動脈疾患予防効果は明確ではなく「(飲酒量を)できるだけ減らすことが望ましい」と改訂されるなど、飲酒と健康の関係が見直されてきています。
アルコールは肝臓でまずアセトアルデヒドに分解されます。
このアセトアルデヒドは、発がん性、アルツハイマー型認知症や糖尿病のリスクを高めるなど、健康障害の原因となる有害な物質ですが、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)によって分解されていきます。
東洋人は、この酵素の働きが強い人、弱い人、全く働かない人に分かれています。飲酒後に顔や身体の皮膚が赤くなることを「フラッシング反応」と言いますが、アセトアルデヒドが分解されずに、身体に蓄積することで起こります。つまりフラッシング反応が起こる方はより飲酒による健康障害の影響が大きいと考えられます。
またフラッシング反応の有無は、遺伝によって決められており、慣れや訓練で変わるものではありません。
1 日当たりの適正な飲酒量は純アルコール(アルコールは比重 0.8)にして、男性で 20g、女性は男性の 1/2 とされています。
純アルコール量はそれぞれのお酒のアルコール濃度から計算されますので、お酒の種類によって実際の量が異なることに注意が必要です。
具体的には、純アルコール 20g はビール 500ml、チューハイ(7%) 350ml、日本酒 1 合(180ml)、ワイン 200ml(グラス2杯)、ウイスキー 60ml に相当します。
1 日当たりの純アルコール摂取量が男性 40g、女性 20g以上の方は生活習慣病の発症リスクが高くなることも分かっており、先に挙げた健康障害を予防するためにも、適切な飲酒量を心がけるようにしたいものです。
週に 1〜2 日を休肝日として飲酒しない日をつくれば、1 日平均の純アルコール摂取量を大きく減らすことができます。
仕事の前日は少なめに、休日の前日には少し多めに飲酒するなど、惰性的ではない「メリハリ」のある飲酒習慣もいいですし、低アルコール濃度(0.5%程度)で、味わいも「本物の」ビールと遜色のないビールテイスト飲料(これならば 500ml を飲んでも、純アルコール摂取量は 2g です)をうまく利用することも有効です。
これからも健康で長くお酒を楽しむためにも、上手にお酒と付き合っていきましょう。