遺伝子診断と予防医学
北陸予防医学協会 施設長 山上 孝司
2003 年に世界中の研究者の協力で、初めてヒトの全遺伝子の配列が決まってから今年は19 年目になります。
この間、遺伝子解析の技術、装置はすさまじい勢いで進歩し、今や1つの研究所や企業で、1日に 2 人の全遺伝子配列を明らかにできるようになりました。
欧米では、大きな集団の遺伝子解析が進み、いくつかの病気に対するなりやすさが、定量的に計算され、予防医学に応用されつつあります。
1つの遺伝子で起こる病気は体質要因が大きいですが、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病は、非常に多くの遺伝子が関連し、体質要因と同じくらい、あるいはそれ以上に生活要因が疾病の発症や進展にかかわっています。
たとえば心筋梗塞の場合、2017 年時点で 92 箇所の遺伝子部位が病気の発生に関連することがわかっていますが、これらの遺伝子の病気の発生に占める割合は半分もありません。
しかし、この 92 の遺伝子部位から、一般集団を心筋梗塞になりにくい人からなりやすい人まで 0〜100 というように順位をつけることができるようになりました。
ある研究では、心筋梗塞に遺伝的になりやすい上位 20%にいながらも、健康な生活習慣を実践している集団と、遺伝的になりにくい下位 20%にいながらも、不健康な生活習慣を実践している集団の、実際の心筋梗塞のリスクを調べると、ほぼ同じであったとのことです。
体質も大事ですが、生活習慣も大事であるという例です。
また英国では遺伝的に乳がんになりやすい上位 5%の人に対して、一般集団の乳がん検診推奨年齢の 47 歳より 10 歳若い 37 歳から検診を受けるべきだという議論が起こっています。
私の夢は、すべての国民が若いうちに自分の遺伝子情報を知り、かかりやすい病気の予防につながる健康行動を実践し、その病気を早期に発見できる精密な健康診断を定期的に受診することで、与えられた体質の中で、最大限の健康寿命を実現できる世の中が来ることです。
自分の体質は一生変わらないので、それを受け入れていくしかありません。自分の体質を若いうちに、かつ正確に知ることがこわいという人もいるかも知れませんが、あらかじめ知っておくことで、たとえ病気になっても「なんで自分が」と苦しむ必要はなくなると思います。