ストレスに強くなるためのカギ〜首尾一貫感覚(SOC)とは何か〜
北陸予防医学協会 産業医 柏谷貴之
多くの産業保健現場に携わり、社会的なメンタルヘルスへの関心、またメンタル不調者との面談の場が多くなっていると感じます。今回は、社会と個人のwell-beingに繋がるであろうSOCについてご紹介します。
イスラエルの医療社会学者アーロン・アントノフスキー氏は、精神面も含めた健康を保つためにはどのような要素が重要かを研究したことで有名な研究者です。SOC(Sense of Coherence:首尾一貫感覚)と名付けられたこの感覚は、ストレスに強い方に特徴的な感覚であり、下記3つの要素から成り立っています。
1. 把握可能感: 自分の周りで何が起こっているのかを理解し、予測可能だと感じる力。
2. 処理可能感: 与えられたリソースやスキルを使って困難な状況に対処できるという感覚。
3. 有意味感: 人生の出来事に価値を見出し、それに取り組む意欲。
これら3つの感覚は、まとめてSOCと呼ばれています。
アントノフスキー氏の研究は、ホロコースト生還者の女性たちを対象に、極限のストレスを経験しながらも健康を維持する人々に焦点を当て、なぜそのような違いが生じるのかを探りました。この研究により、SOCが高い人はストレスに対して柔軟に対応しやすく、健康を維持しやすいことが明らかになりました。
SOCの形成には汎抵抗資源と呼ばれるものが関与します。汎抵抗資源とはストレスに対抗する糧(資源)になり得るものです。これには、ソーシャルサポート、ソーシャルネットワーク、物質的資源(お金や物)、知識、宗教、哲学、芸術、さらには遺伝的要因や体質、気質などが含まれます。
例えば、強力なソーシャルネットワークを持つ人は、困難に直面した際に周囲の支えを受け、精神的な安心感を得ることができます。また、十分な知識や物質的リソースがあれば、問題解決能力が向上し、ストレスへの対処がより効果的になります。
調整が難しい環境要因もありますが、自身の生活やこれまでの体験を振り返り、自身がストレスを受けやすい環境、どの汎抵抗資源を伸ばすことで、生きやすくなるかを考えてみることで、well-beingが実現されることでしょう。
現代社会では、情報過多や急速な社会変化が多くの人にストレスを与えています。情報社会においてもSOCを育むことが、メンタルヘルスの維持にとって重要です。SOCや汎抵抗資源を理解・活用し、ストレスへの理解を深めることで、個人の健康だけでなく、社会全体の安定にも寄与していくことでしょう。