メンタルヘルス コラム

2024年09月09日

野村邦紀医師ドクターリレーコラム「尺八とα波」

尺八とα波

健康管理センター長 野村邦紀

 私は、医学部に入学前に早稲田大学の邦楽サークル「虚竹会(こちくかい)」に所属し、尺八を琴古流尺八宗家三世川瀬順輔先生に習っておりました。その後10年で師範を許され師範名「虚友(きょゆう)」を頂きました。現在は琴古流尺八宗家竹友社全国竹友会北陸支部長を務めております。そこで今回、尺八と健康についてお話します。
 富山県高岡市にある国泰寺は、臨済宗の寺でありながら国内で唯一虚無僧が絶えたことのない寺です。普化宗は臨済宗に近い禅宗の一派ですが、その僧侶が虚無僧でした。水上勉氏の著作「虚竹の笛」にその来歴が詳しく書かれております。彼らは念仏を唱える代わりに尺八を吹き、これを吹禅と言いました。息を長く吐き続ける呼吸法は、修行でもあり、健康にも良いとされていたのです。
 国泰寺の開山慈雲妙意禅師が、法燈国師(我が国の普化宗の祖。心地覚心、虚竹禅師)に師事したことから、普化宗が明治4年に廃宗となった後も、国内で唯一虚無僧の籍が絶えたことない寺となりました。現在でも、開山忌や法燈忌には、国泰寺の虚無僧の会である妙音会の会員が、全国より集まり虚無僧姿で演奏します。(写真1)。
 さて、ヒトの脳波には6種類あることが知られており、睡眠中に多いθ波、計算中など脳が働いている状態に多いβ波、リラックス状態のα波などがあります。α波が多く出る状態は健康にも良いとされています。受動的には、クラシック音楽や映画音楽、民族楽器で演奏される音楽の鑑賞また、一部の名画の鑑賞などでα波が出やすいと言います。箏・三味線・尺八による古典三曲合奏の響きは、我々日本人の心の深層に届き、DNA を呼び覚ましてくれるのかもしれません。
 能動的には、射撃選手の引き金を引いた直後、尺八奏者の尺八古典本曲の演奏中そして最後の音が収まった直後に、多くα波が出ることが証明されました。35 年ほど前、あるテレビ局の企画でどのような時にα波が出るのかが調べられたのです。
 ヨガとは正反対の呼吸法ながら、深呼吸を繰り返し、指先を細かく使う尺八吹奏が健康に悪い訳がありません。
 皆さん、邦楽演奏を聴き、できれば尺八を始めてみませんか。

 写真1(とやま観光ナビより) 開山忌に全国より集まった妙音会会員による虚無僧姿の本曲演奏。首に妙音と書いた偈箱(げばこ)をさげ、頭に天蓋(てんがい)と呼ばれる深編み笠を被っています。

ページトップ