メンタルヘルス コラム

2024年06月01日

松江泰弘医師ドクターリレーコラム「アニサキスによる食中毒予防」

アニサキスによる食中毒予防

とやま健診プラザ医師 松江 泰弘

 皆さんアニサキスは御存じでしょうか。ニュースやテレビで見たことがある、食中毒の経験があるなどアニサキスを知っている人は多いかと思います。アニサキスとは約2〜3cmの白い糸状の寄生虫です。サバ、イカ、アジなどの魚介類に寄生しています。アニサキスは食中毒であり、食べてから数時間後に激しい腹痛や吐き気を認めることがあります。
 私は 2021 年からとやま健診プラザにて胃内視鏡検査をしていますが、当施設で私が担当させて頂いた中だけでもアニサキスを偶然に発見することが 2 例ありました。病院などの医療機関であれば、症状のある患者さんが集まり、腹痛の訴えや食事内容・問診からアニサキス症を疑って胃カメラをしますが、健診施設ではほとんど症状がない状況で胃癌検診を目的に胃カメラをするため、アニサキスの予想外の遭遇に驚くことがあります。2 例とも前日の夕食に刺身を食べており、また、アニサキスが胃の壁に噛みついて赤いびらんをつくり見るからに痛そうな印象でしたが、腹部症状など自覚症状が全くない症例でした。症状があれば病院などの医療機関へ受診されるかと思いますが、自覚症状が乏しい状況でたまたま予定していた胃カメラがあり偶然発見できたのだと思います。腹部症状は個人差がありますが、アニサキスが食いついた胃や腸の壁に局所的なアレルギー反応を起こし、粘膜が腫れてかなりの激痛を訴える方もいるため注意が必要です。
 欧米では生食用の魚介類は基本的に冷凍規制があり、アニサキスに対する冷凍処理を強制的にしていますが、日本では冷凍規制はなく新鮮な魚介類が食べられる文化である一方で、運悪くアニサキスにあたってしまうことがあります。大体はプロの方が捌き料理をされているため、過度に心配する必要はないと思いますが、自分で料理する場合は特に注意が必要です。
 アニサキスは予防が大切です。小さな糸状の虫体のため 100%の予防は難しいかもしれませんが、以下の予防策や知識でリスクを減らすことは可能です。

●アニサキスは魚の内臓にいるため、新鮮なうちに内蔵を取り除かないと、虫体が内臓から筋肉に移動してしまう。新鮮なうちに処理が必要。
●冷凍(-20℃ 24 時間以上)、加熱(70 度以上、60 度なら 1 分以上)
 アニサキスは熱に弱いため、表面だけでなく、中心部までしっかり加熱する。
●よく見て取り除く。
●お酢、塩、しょうゆ、ワサビではアニサキスは死滅しない。

 他医療機関での経験ではありますが、自分でサバをお酢でしめて料理し、食後にアニサキスによる腹痛で来院された患者さんがいました。お酢でしめるとアニサキスも処理されて死滅するイメージがありますが、当時の私もその患者さんもお酢で処理すれば大丈夫と思っていました。でも、実際に胃カメラで鉗子を使用しアニサキスをつかみ取った際にアニサキスが元気に動いていたので、お酢は効果がないのだと知り印象的でした。
 健診では将来的な病気を予防するという意味での「予防医学」があります。それとは少し違った観点ですが、食中毒を予防することも、健康を維持するために大切なことです。予期しない食中毒は健康被害につながります。特に魚介類の刺身はとても身近な食事であり、アニサキスも同じくらい身近な存在と言えます。食中毒によって健康を損なってしまわないよう、気を付けましょう。

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