100年以上使われている薬、アスピリン
千代田循環器内科クリニック
院長 永田 義毅
糖尿病の患者さんは、心筋梗塞の危険性が2倍以上です。心筋梗塞の再発予防に有効な代表的な治療薬に、アスピリンがあります。このアスピリンを、糖尿病患者さん全員が飲むと、心筋梗塞を抑制できるのではないかと考えたイギリスのグループが、調査した結果が、今年8月に報告されました。糖尿病患者さん1万5000人超を、アスピリンを飲む人と飲まない人にわけて比較したのです。
まず、アスピリンという薬について説明します。毎年、様々な薬が開発されては消えていきます。新しい薬を開発するために、製薬会社は10年以上の長い年月をかけて研究します。さらに、効果と安全性を評価して厳しい基準をクリアし、初めて新薬が世の中に登場します。しかし、せっかく登場した薬も、また新たな薬が開発されると主役の座を奪われて、いつしか使われなくなります。その中で、100年以上使用されている薬があります。アスピリンです。
アスピリンは、1800年代に解熱鎮痛剤として普及しはじめました。1897年バイエル社(ドイツ)が純粋なアスピリン合成に成功しています。1899年にアスピリンは発売され、1900年には日本でも発売されていました。
1971年に、アスピリンの新しい作用が発見され、脳・心血管病への応用が広がります。低濃度のアスピリンが血小板の凝集を抑制して、血栓形成を減らす作用が解明されました。血栓は、脳や心臓の血管を詰まらせて、脳梗塞や心筋梗塞をおこします。これらの病気をアスピリンで予防できることがわかったのです。その後の多くの研究の結果、アスピリンは、脳梗塞や心筋梗塞になった患者さんの再発を約20%〜30%低減することが証明されています。現在では、病気の再発予防のために生涯服用することが勧められています(二次予防)。
さて、冒頭で紹介した研究(一次予防)の結果です。アスピリンは糖尿病患者さんの心臓病を12%減らし、有効であることが証明されました。しかし、出血性合併症という副作用は29%増えました。その結果、アスピリンの心臓病抑制のメリットは出血リスクによって相殺されてしまいました。よって、アスピリンは良い点と悪い点があるので、そのバランスを考えて飲むかどうか判断しましょうという結果でした。
今回発表された研究の結果、アスピリンは、安全な予防薬という結果にはなりませんでしたが、心臓病治療に必要な薬であることには、変わりがありません。最近では、大腸癌を予防する作用が注目され、米国予防医学専門委員会が服用することを推奨しています。アスピリンは、誕生から 100年以上たった今も、脳・心血管病だけでなく、癌やアルツハイマー病などの疾患に対する研究が続けられており、 古くて新しい薬として、発展を続けています。