メンタルヘルス コラム

2016年09月02日

<コレステロール治療のゆらぎ>   健康管理センター長 武田 三昭

 2013年にアメリカの心臓病学会からコレステロールの食事療法について興味ある発表があった。「コレステロール摂取量を減らして血中コレステロールが低下するかどうか判定する根拠が数字として出せないことからコレステロールの摂取制限を設けない」というのだ。2015年にはアメリカの農務省USDAの一般国民向けのガイドライン作成委員会レポートに「食事中のコレステロール摂取と血中コレステロール値の間の相関を示すエビデンスが十分でないことから、これまで推奨していたコレステロール摂取制限を無くす」ことが記載された。コレステロールは体の中で70−80%産生され、食事からは20−30%吸収されているにすぎないため、コレステロール値が高い人では食事療法の効果があまり期待できないのだ。

 日本のコレステロールの専門学会である日本動脈硬化学会もこの発表を受けて、健常者の脂質摂取については、同意見であると賛同している。ただし高LDL血症患者では、コレステロールの摂取のみを制限しても改善がほとんど期待できないため、生活習慣、運動、食事など包括的に修正することが大切であるとしている。                            
  学会では、統計上コレステロールの摂取を制限しても血中コレステロールが低下してない原因として、個人差が大きいためと説明している。現在学会が推奨している食事は飽和脂肪酸4.5%以上7%未満、トランス脂肪酸の摂取を減らすこと、コレステロール200mg/日以下とした。コレステロールを低下させるためには飽和脂肪酸(肉類)やトランス脂肪酸の制限も重要ということである。具体的にはさらに旧来の日本食、DASH食(高血圧、減塩食)、食物繊維を多く摂取することを挙げている。簡単にはバランスの良い食事を摂りなさいと要約できる。トランス酸は動脈硬化を起こす危険な脂肪酸でマーガリン、ケーキなどに使うショートニング、菓子などに含まれ、アメリカでは2018年には原則禁止になっている。残念ながら日本では国民の摂取量がもともと少ないからと規制の対象にはなっていません。

 アメリカの薬物療法では、薬の内服をしたほうがいい患者さんとして4つの場合を指定している。(1)動脈硬化性心疾患を有する患者(狭心症、心筋梗塞)(2)LDLコレステロールが190mg/dl以上の患者(3)LDLコレステロールが70−189mg/dlの動脈硬化性心疾患のない糖尿病患者(40−75歳)(4)LDLコレステロールが70−18mg/dlで糖尿病はないが、今後10年間で動脈硬化性心疾患のリスクが7.5%の患者(40−75歳、高血圧、たばこ喫煙など)である。治療のための管理目標値を設定せず、中または高強度のスタチン内服を勧めている。アメリカでは採血検査で結果を確認する医者が少ないため、ともかく薬を飲ませなさいということのようである。

 人種差があるためアメリカの指針に従うべきか難しいが、コレステロールの高い方は参考にしてもいいと思われる。

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