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コラム

2023年10月01日

山本森弘医師ドクターリレーコラム『偶然の出来事』

偶然の出来事
北陸予防医学協会 医師 山本森弘

私たち健診医は、「診察」で受診者の異常を見つけることは出来ますが、その後の検査・診断・治療の結果を知ることが出来ません。
しかしかなり低い確率ですが、数年間同じ受診者を診察し、健診後の経過を知ることができた方がいます。今回はそんな稀有な方々を紹介したいと思います。

1例目は富山県東部での事例です。
40〜50 歳代の男性で、甲状腺に大きさ 7〜8mm の小さな腫瘍がある方がいました。
要受診にするか迷いましたが、1cm 未満では仮に受診しても細胞診はできないと思い、要経過観察としました。
1年後の健診でゴルフボール大の甲状腺腫瘍の方が来ました。
前年の結果を見ると要経過観察と書いてありました。
それを見て 1 年前に非常に小さな腫瘍の方がいた事を思い出しました。
わずか 1 年でこれ程大きくなるのは癌だと思い、至急病院を受診して必ず針を刺す検査を受けるように指示しました。
その 1 年後の健診で診察をしようとしたところ、「先生のおかげで命拾いをしました」と言われました。
「何のことですか?」と訊き返すと「手術を受けたら、甲状腺癌でした」と、「何故私だと思うのですか」「先生は左利きだから」と言われ「なるほど、よく私の事を覚えていましたね」と感心しました。
私の判断がその後の治療に役立てられました。

2 例目は岐阜県飛騨地方での事例です。
30〜40 歳代の男性で甲状腺の右側が左側に比べるとほんの僅か腫れている方がいました。
非常に迷いました。
普段なら経過観察とするところですが、その時は何故か要受診としました。
1年後その方を診察しました。
甲状腺の腫れは 1 年前と変わらずほんの僅かに右側が腫れていました。
心の中で「要受診にするべきではなかった」と思いました。
こちらから「病院へ行っても何ともないと言われましたか」と訊ねると、「否、病気だった。橋本病だった」と答えてくれました。
「えっ橋本病。これが橋本病。」と私。
「診断に時間がかかった。薬はまだ飲んでいない。」と言っていました。
私はまだ甲状腺ホルモンが正常なごく初期の段階で橋本病を見つけた事になります。
この方の場合何故要受診にしたのか、自分でも分かりません。
虫の知らせだったのかもしれません。
「この人は病気だから要受診にしなさい」と。

3 例目は富山市近郊での事例です。
40 歳代の女性で甲状腺の一側の上極(甲状腺は蝶ネクタイ型をしていて、左右の上へ飛び出している所を上極と言います)が明らかに腫れている人がいました。
腫れているのは甲状腺のほんの一部なのですが、上極だけが腫れているのが気になりました。この方の場合は診断に自信が有り要受診としました。
1 年後診察した時、前回が要受診になっているのを見て、自分が診察した方だと気が付き、「病院へ行ってどうでしたか」と訊ねると「橋本病でした。薬ものんでいます。」とのこと。
この方においても、私の判断がその後の治療に役立てられました。

岐阜県飛騨地方の健診日は 1 日しかないので、同じ医師が診察する可能性はあります。
しかし他の健診は複数日に渡り、しかも私がその年にその健診会場に行くかどうかは決まっていません。
そういうことから考えると、3年連続で診察できた方の場合は偶然の出来事と言えます

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